ディベート小噺:ねこちゃんぴおんしっぷにアイアンで出場した時の思考法の話

 ども、けろです。

 季節は冬真っ只中。北海道出身の自分でもビビるくらい寒い日があったり、関東でも雪が降ったりしてるのは複雑な感情になります。冬は四季の中で一番好きなんですが、地元と違って家の中が寒かったり慣れない雪で交通インフラが死ぬのはシンプルに殺意が湧くので。

 

 まぁあと2ヶ月もすれば春がやってくるわけで、春といえばAsianシーズンです。ちょうど2〜3月はBPスタイルとAsianスタイルの転換期であり、つい先日もBPのねこちゃんぴおんしっぷの次の日にAsian Bridgeがありました。しかも参加者リスト見たらねこちゃんに出てた人がAsian Bridgeにも出ていたりして、「マジで??」となりました。冷静に考えなくても脳みその使い方が全然違うBPとAsianを2日間でハシゴしてるの、体力も適応力もバケモンすぎる。

 

 と思ったんですが、僕もAsian Bridgeの前日のねこちゃんぴおんしっぷにアイアンで特攻するというコロコロコミックの主人公のようなムーブをしていたので人のことは言えないことに気づきました。

 アイアンで参加することのしんどさとかに関しては前回のブログで取り上げたので、今回はほんのちょっとだけ生産的な内容、「アイアンで大会に出場した時にどんな風に思考していたのか」について少しだけ記事を書きます。

 

 とはいえ現在(というかそもそものディベートという競技性において)の国内大会でアイアン参加を前提にしているものは皆無なので、冷静に考えて「アイアンの思考法を伝授しても意味なくね?」という感じではあるんですが、「自分に高い負荷をかけてプレパをする時のやり方」くらいに置き換えてもらえれば僅かながらに汎用性はある気もします。

 

 普段のプレパよりちょっとだけ重たい練習をしたい人、練習でアイアンをすることが時折ある人、あるいはシンプルに僕の思考の一端を覗きたい人(そんな奴おるか?)、そんな人向けの記事です。

 

 というわけで以下目次です。基本的に論題が発表されてからプレパが終了するまでを一つの流れとして書いているので、その前提で読んでもらえるとスムーズかなと。

 

1.対立軸を徹底的に洗い出す

 

 まず論題が発表されてから僕が真っ先にやったことは、細かいケースや具体的な話は考えず、ひたすら「その論題において想定される対立軸を洗い出す作業」でした。

 とはいえこの作業は通常のパートナーとのプレパでも必要な作業であり、これがアイアン特有なのかと言われると厳密には違うと思いますが、あえて違いを挙げるのであればその「濃度」でしょうか。

 アイアンで恐ろしいのは、「勝ち負けの全てが自分の肩に乗っている」ということです。考え、アウトプットし、話す、その全ての作業が自分一人で完結し、誰も助けてくれないという孤独な15分を過ごさざるを得ません。

 

 その中で最も怖いのは、「対立軸・クラッシュを選び間違えた瞬間に全てが終わる」という点です。デカすぎる地雷。

 これはパートナーとのプレパであればある程度練り上げた状態でキャッチボールを開始し、その過程で軌道修正することができます。もちろん人によってはそのやり方に差異はあると思いますが、仮に対立軸がぼんやりしている状態でもチーム内のコミュニケーションによってその像を徐々に明確にすることが可能です。

 

 アイアンはそれができない、つまり「他人の知恵や視点を以ってして自分の思考の軌道修正を行えない」ので、とにかくこの作業に一番の時間を割いたといっても過言ではありません。多分最初の4分くらいはこの作業に脳のリソースの7割くらいを使ってました。

 

a)マクロな対立軸:これは何が対立する論題なのか

 

 まずは所謂マクロな対立軸の洗い出しです。

 ねこちゃんの論題を例に出すと、R1のTHW ban cosmetic products and servicesであれば、「政府による介入vs個人の選択の自由」「コスメ用品・サービスに起因する社会的な問題vs個人の便益」のように、ある程度トレードオフになることが推定され、かつ論題の中心になるであろう対立軸を(使えるかどうかは別にして)とりあえず書き殴りました。

 

 これをやっておくことで、「この論題は何が言えるのか」という自サイド視点の思考ではなく、「この論題において言わなければいけないことは何か」という客観的視点での思考を忘れずに済みました。具体的には「そもそも政府が個人の選択に介入しちゃいけない理由って何だっけ?」という、この手の論題においては当たり前の話をOOの最後の方で話したことがR1の勝ちに繋がったのかなと思っています。

 

b)ミクロな対立軸:govとoppで取り合いになる争点は何か

 

 マクロな対立軸の洗い出しが終わったら、と言いたいところですが、実のところ上記のマクロの対立を考えている最中に、ほぼ同時進行でこの作業、ミクロの対立軸の洗い出しを始めていました。とはいえマクロな対立軸の方が個人的な優先順位としては高いので、脳のリソースの割き方としてはマクロ:ミクロ=7:3くらいの割合です。

 

 脳の並列思考って何だよボケナスと石が飛んできそうなので具体化しておくと、僕はよく"連鎖的に思考を繋げる"ようにプレパをしています。

 例えば上記の「政府の介入vs個人の選択」の対立軸を考えている最中に、「てことは多分、cosmetic products/serviceがcoersionを引き起こしているのかどうかを証明することになるな」と思考を紐付け、そこからさらに連鎖的に「あ〜、となるとgovは"コスメユーザーの多くが強制されている"って話をするから、oppはcontextをきっちり話さないと負けるな」みたいに繋げていきます。要は一人でミラクルバナナをやってると思ってください。虚しいですね。

 

 そうしていくと幸か不幸か、マクロな対立軸を整理し終わった段階で大凡のミクロな対立軸の整理も終わっています。

 上記の論題を例に考えると、

・「コスメ用品が売られているコンテクストはどんなものなのか」

・「コスメユーザーは何を考えてコスメを使っているのか」

・「じゃあこれが無くなったら人々の意思決定はどんな方向に動くのか」

 等の視点です。

 

 これらはマクロな視点とは別の階層である、ディベートの進行に伴ってに奪い合いになる争点って何だろうね?」という視点の話です。前者がメタ的な視点であるとするなら、より当事者に近づいた思考と言えるかもしれませんね。知らんけど。

 

 これを同時進行でやっていくのはもしかしたら思考に衝動性のある人の方が向いてるかもしれません。僕は上司やバイト先の社員が何かを話している時にも話そっちのけで脳内連想ゲームをしてしまうような多動性・衝動性がある人間なので、参考にならなかったらごめんちょ。

 

 ちなみにコツとしては、プレパ用紙の空きスペースをとにかく縦横無尽・カオスに使いまくってください。思いついた思考を書き殴り、別の思考が脳をよぎったらそれがどこかにいく前にとりあえず書き留めておくと、プレパ用紙はカオスになりますが思考はアウトプットできます。

 

2.自分達のケースに従ってひたすらアクター・現象を分析する

 

 対立軸の整理が終わったらあとはひたすら「詰め」の作業です。型はできており、向かう先も分かっているのであとはそこに向けてエンジンを回していきます。

 

a)水平思考:「ある帰結」を導くために必要な諸要素の羅列

 

 これはもうディベート思考におけるテンプレになっているのであまり深くは触れませんが、ディベーターがよく言う"〇〇 reasons here"とか"▲▲ mechanisms we have"とかいうやつです。

 R1の論題に関して言うなら、「容姿の自己決定は大事である」という主張を補強するための具体的な理由づけです。僕は「birth lotteryじゃん」「日によって気分は変わるしその都度理想の自分は変わるじゃん」みたいな話をしました。

 

 あとはコンテクストの分析には

・「メディアによる多様な発信」

・「SNSでの個々人の発信」

・「コスメ業界の市場心理」

 みたいな話を並列に考えてました。要はキャラクターを色々挙げてみようね、という当たり前の話です。

 

b)垂直思考:一つ一つの要素をきちんと深める

 

 上の水平思考とほぼ同時に、思いついた話を深めていきます。それがどのように大事なのか、具体的な例はあるのか、その話をすることで自分/相手の話はどう変化するのかなど、ただ「大事なの!!!!だからジャッジは取れ!!!ヴォ"イ”!!!!!」みたいなシャウトで終わらせないように気をつけていました。多分。

 

 あと、この垂直思考をしていく過程で「あれ、やっぱりこの話ってexclusiveにならんから使えんワ」みたいになったらその時点で容赦無く切り捨てます。例えを出したかったんですけど僕は切り捨てた思考の断片はマジで粉微塵に忘れてしまうタイプの人間なので許してください。

 

 で、理想はこのaとbを同じ進行度合いでやれるとベストかなと思っています。

 水平的な洗い出しをし終えてから一つ一つの要素を深めたり、一つの要素を深めきってから別の要素を考えたりすると意外に時間がなくなってしまったりするので、前述の「思考の衝動性」を上手く操りながら、脳みそを並列に使ってとにかくスピーチ原稿を埋めていきましょう。

 

 その上で大事だなと思ったのが「とにかく紙を大胆に使う」です。

 これは色んな人が言っていますが、スピーチ原稿を作る上で見た目の美しさやコンパクトさはそんなに重要じゃないと思っています(もちろんスピーチする自分がちゃんと体系的に話せるのであれば、の前提はありますが)。

 書いた後で「やっぱ違ェな」って思ったら横線でガシガシ消して、その下に書き直せばいいので、そういう紙の使い方をしていると、必然的にシャーペンよりボールペンをよく使うようになります。いやシャーペンでもいいと思うんですけど、消しゴム使って消す手間がなくなるので結果的にボールペンを多用するってだけの話ですが。

 

3.各スピーカー用に意識的に「思考の階層」を作る

 

 ここまでで大凡プレパ時間の半分〜10分くらいを使っています。ただその間に思いついた話や「あ〜これスピーチに落とし込めるな」って思った話は随時原稿に書いているので、原稿が真っ白というわけではありません。完成度的には5〜6割くらいといった感じ。

 この時点で既に大分脳のキャパシティを使っているんですが、ぶっちゃけ一番キツいのがここからです。特にオープニングは残り数分でラウンドが始まるのでマジで時間との戦いです。クロージングにはクロージングのしんどさがありましたが。エクステンションの考え方は需要があればそのうち記事します。

 

a)立論は早めに大枠を固め、考えながらアウトプットしていく

 

 立論、とりわけファーストの話は上記の時間内である程度の大枠を決めています。ぼんやりと「こんな感じの話になるな」という方向性を定めて、アウトライン・骨組みを大凡決めておきます。

 そこから先は「考える」「書き出す」作業を同時に進めていきます。

 

 『呪術廻戦』に登場する伏黒恵は初めて領域展開を使用した際「具体的なアウトラインは後回し。呪力を練ったそばから押し出していけ」という台詞を口にしていますが、僕の場合は「アウトラインだけ決めておいて、あとは考えたそばから押し出していく」といった塩梅でした。呪術読んでない人がいたらすみません。

 

 これは別にアイアンに限った話ではなく、短いプレパ時間を効率的に使う練習にも使えるテクだと思います。考えてから原稿を進めるのではなく、考えながら原稿を書いていく作業です。

 

b)立論の過程であぶれた断片を思考の水面付近に集めておく

 

  その思考の過程で、僕の場合必ずと言っていいほど「ノイズ」が生まれます。前述の思考の衝動性を抑え込んでいない場合は特に、です。

 この「ノイズ」というのは、要は「あ〜ああいう話もできるな」とか「こういうexample足せるなぁ」とか「相手がこういう話をしてきたらこんな反論しようかな」みたいな、『チームにおいては必要だけれど、少なくとも今の自分のスピーチには組み込めないな』という「思考の断片達」のことです。間違っても今日の晩御飯の献立とかじゃないです。

 

 これを自分のスピーチに組み込んでもいいんですが、無理にそれをやるとスピーチが崩壊したりタイマネが死ぬ可能性がある場合は組み込まずに放置します。

 ただ、放置しっぱなしだと勿体ないし普通に忘れてしまうので、これまた別の紙に書き殴ったりメモ書きに残しておいたりします。

 で、自分の原稿作りに脳のリソースの8割を割きながら、この「ノイズ」に対しても1〜2割のリソースを向けています。完全に忘れるのではなく、頭の端っこの方に残しておくといったイメージです。この作業が後々セカンドをやる時に活きてきます。というより僕の場合無理でにもこれをやっておかないとセカンドの原稿を作る時間がなくなって死にます。

 

 例えばR1の論題では、「cosmetic products & servicesは個人の自己実現にとって重要」というケースを考えている最中に(あ〜、多分セカンドの比較で個人の意思決定の話をすることになるな)という思考を脳の端っこに残しておいて、そこから「メディアによる発信の内容」「個人がアクセスするコンテンツの中身」をセカンドの原稿に箇条書きにしておきました。

 

c)異なるexample、反論の型を無理矢理にでも形にする 

 

 前回の記事でも書きましたが、特にファーストとセカンドで投げる反論には細心の注意を払いました。

 僕はどちらかといえばファーストタイプの思考をしてしまう人間なので、意識せずにいるとついいつもの癖で反論を考えてしまいます。するとどうなるかというと、セカンドでファーストと同じ反論をしてしまったり、even ifケースに対応した反論が思いつかなかったりします。そうなると話が広がらないしジャッジからの心象も悪くなってしまうので、ほぼ強引に思考を階層化しました。

 ファーストで投げた反論には大きく印をつけ、セカンドではなるべく触れないように気をつけながら異なる型の反論を打つように思考を回していく作業です。

 

 ファーストで"not true""not exclusive"の反論を打ったなら、セカンドでは"even if""rather good"を打つように考えたりしていました。結構苦しいししんどいですが、普段の自分が考えているように考えてしまうと結局普段の自分通りのパフォーマンスしか発揮できなくなってしまうので、ここに関しては自分をギリギリまで追い込む作業でした。一番気が狂うかと思った。

 

 この点はラウンド中の話も含んでいますが、プレパ中にもこの階層化は役に立ちます。色々な方向性からケースを考えていくと、話が膨らんでファースト一人では処理しきれなくなるので、そうなったらその話は切り離してセカンドに投げたりできるからです。反論を予め用意しすぎると想定外の話に対応できなくなるリスクがあるので一概に良しとは言えませんが、入口くらいは作っておくといいかもしれませんね。

 

 これらを15分でぶん回していくのは脳みそがグツグツに沸騰する作業ですが、僕がヒーヒー言いながらやっていたこれらの作業をソツなくこなしてしまう人がいるのもまた事実で、つくづく自分の未熟さを思い知らされます。

 

 

 普段は意識せずにやっている自分の思考回路を当日のフローやプレパ容姿を振り返りながら書いてみましたが、果たして需要があるのかは謎です。

 実際は当日の緊張やラウンド部屋への移動時間もあってここまで綺麗にこなせませんでしたが、オンライン環境であればもう少し時間を有効活用できるかな、と思います。

 

 

 恐らくアイアンで大会に出る人はそう多くないとは思いますが、自分に負荷をかけ続けると間違いなく上達すると思います(少なくとも僕は、リハビリの一環で参加した練習でアイアンをやったことは自分の思考力の向上に寄与したと感じています)。

 自分のキャパをちょっとだけ超えるくらいの塩梅の負荷をかけた練習、一度やってみるのもアリな気がします。用法容量は守ってくださいね。

 

 

 

 あーよく書いた。

 

 それでは。